保育園で度々起きてしまう保護者からのクレーム。
多くの保育士がいざ自分で対応をしなければならない時に頭が真っ白になってしまったり、適切な対応ができなかったりしないだろうかと不安を感じています。
その時の対応の仕方によってはより大きなクレームにつながることもあるからです。
この記事では保育園によくあるクレームを例にあげながらベストな対応の方法をまとめていきます。
保護者対応に保育士は四苦八苦・・・
保育士の仕事は子どもと遊んでいるだけではありません。
子どもの体調の管理や保育活動の準備、掃除や消毒などの衛生管理、保育記録など様々な書類の作成などその仕事は多岐に渡ります。
また保育士の重要な役割として保護者の支援もあげられます。
初めての子育てに不安を抱えている保護者にとって気持ちに寄り添ってくれる保育士の存在は心強く感じられるものです。
しかし近年では支援という枠を超えて過度な要望をしてきたり、理不尽なクレームを入れたりする保護者も多くなってきています。
東京都保健局が実施した平成30年度「東京都保育士実態調査」の中で「負担に感じていること」の項目のうち「行事」が62.8%、「保育計画書の作成」が55.9%に次いで「保護者対応」が49.6%と半数にものぼることがわかりました。
このことから保護者支援のための訓練を受けているはずの保育士にとって「保護者対応」が負担となり疲弊している現状がうかがえます。
クレーム対応の原則はまず話を受け止めて、聞くこと
クレームはもらっても決して嬉しいものではありません。
もちろん無ければ無いに越したことはありません。
しかし裏を返せばクレームを言ってくるということは保護者にとっても「現状を良くしたい」という思いがあるのです。
もしかしたらクレームすら言えずに不満をため込んでいる保護者もいるかもしれません。
そういう保護者ほど問題が起きたとき修復できないほどの溝ができてしまうのです。
クレームを寄せてもらえているうちに解決しその問題と向き合うことで、より良いサービスや保育につながっていくと思えば、むしろそうした意見を言ってくれた保護者に感謝をするべきだと捉えることもできるのです。
そのことからクレームの対応の原則はまずは相手の話をよく聞き、理解しようとする心構えが大切だと言えます。
話を聞いていくうちに相手の保護者も少し冷静さを取り戻すことができ、こちらからの話も通じやすくなります。
【ベテラン保育士が解説!】ケース別のベストな対応方法
クレーム対応について相手の話をよく聞き理解しようとすることが大切です。
しかし保育園では理不尽だと感じるクレームも存在します。
もちろんその際も保護者の話に耳をよく傾けることが大切です。
その上でクレームのケース別にどのように対応するべきかの例について解説していきます。
ケース1:自分の子どもをもっとしっかりと見て欲しい
家庭で子どもを見ているときは、自分の子どもから目を離さず今日一日あったことをひとつひとつ思い出すこともでき、どんなに小さな成長にも喜び、例えばちょっと頬をひっかいて赤くなってしまったとしてもすぐに気が付くことができるはずです。
さらに祖父母と同居しているときは1対1以上で子どもを見守ることができます。
しかし保育園という場で預かる以上、複数の子どもと一緒に過ごすので家庭と同じようにはいきません。
「ちゃんと子どものことを見てください!」とクレームを言われた場合「他の子どもも見ているから100%目を配るのは難しい」と感じることもあります。
しかし、それをそのまま伝えてはますますエスカレートしてしまいます。
ポイントは保護者が「どんなことについてしっかり見ていて欲しい」と感じたのかをよく聞き取りをすることです。
「どんなことを見ていて欲しいか」を聞くことで「なぜそう思ったのか」が分かり、それが思いもよらない原因だったりします。
例えば「お迎えの時にもっと話を詳しく聞きたかった」「最近洋服の返し間違えが多い」など別のところに不満が隠れている場合があります。
まずは一見理不尽に聞こえる保護者の話を誠意を持って受け止めていきます。
「〇〇さんはもっとお子さんを見ていて欲しいと感じられたのですね。
日中は保育園の様子が分からなくて不安ですものね。
お迎えの時には時間も限られてなかなかゆっくりお話できないので、後日担任と面談する機会をつくろうと思うのですがどうでしょうか。」
ケース2:行事の日程や内容を変更して欲しい
保育園の行事は子どもの成長を感じられる機会なので、保護者としては何としてでも参加したいものです。
開催する保育園としてもそれまでに精一杯準備してきているので全員の保護者に見てもらいたいのですが、ごくまれに「日程や内容を変更して欲しい」と要望を出してくる保護者がいます。
なぜ変更して欲しいのか聞いた上で単に保護者の都合で変更したいということであれば、よほどのことが無ければその要望は聞き入れることができないことがほとんどです。
そうした場合は例えば下記のように対応します。
「お仕事の都合で行事の日程を変更したいということなのですね。
〇〇ちゃんの園での成長した姿を見るのを楽しみにしてくださっているのですね。
最近本当にいろいろなことができるようになりましたもんね。
ですが大変申し訳ないのですが、今回の行事の日程は何ヶ月も前に決まっていて皆様にお知らせもしてしまいました。
日程を変更してしまうと、他のご家庭でもご都合が合わなくなってしまいます。
私たちも〇〇ちゃんの成長を保護者の方には見ていただきたいと思っていますので、これからも成長をご覧いただく機会を設けています。
今回の行事についてはご理解ください。」
ケース3:担任やクラスを変更して欲しい
保護者から担任を変えて欲しいと言われてしまったら、とてもショックを受けてしまいます。
自分に対して言われてしまっては落ち込んでしまうかもしれませんが、まずはなぜそのようなことを言いだしたのかきちんと聞き取りをすることが大切です。
保護者の側も感情的なっているとはいえそんなことを申し出るくらいなので、保護者にとって大きな原因となる出来事があるのです。
たとえば受け取り方は人それぞれなので「そんなつもりで言ったのではない」と思っていても相手はもっと深刻に受け止めたり、傷ついているという可能性もあります。
そのような場合は真摯に受け止め誠意を持って謝罪を伝えることが大切です。
保護者が感情的になっている場合は聞き取りが難しいことがあります。
その場合は当事者である自分自身だけではなく、園長や主任などに入ってもらいましょう。
「〇〇さんは担任を変えて欲しいのですね。
ですが、お子さんもせっかくこのクラスに慣れてきたのに途中で変わったら気持ちに負担をかけてしまいます。
まずは、なぜそのように思われたのか、詳しくお聞かせいただけないでしょうか」
ケース4:怪我をさせた相手の子どもの連絡先や住所を教えて欲しい
保育園に子どもを預けているときは、どんなに信頼している園でも「今日1日元気に過ごせるだろうか」と少なからず不安を抱えています。
そのようなことから保育園にお迎えに行った時に元気に過ごしていたと思っていたのに、怪我をした我が子を見ると、親として本当に悲しくなるものです。
とくに保育園で初めての怪我であったり、傷が顔にできてしまったり深く跡に残ってしまう怪我であれば、とても冷静でいられなくなってしまい怪我をさせた相手の家に一言いいたいと連絡先や住所を聞いてくるのです。
ここは怪我をした経緯を詳しく説明し、怪我をさせた責任はあくまで園にあることを伝え謝罪をし、さらに今後の対応をすぐに行うことが大切です。
「〇〇ちゃんにお怪我をさせて心配をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。
このようなお怪我をさせてしまったのは私たちの目が行き届かなかったためです。
相手のご家庭にもお友達にお怪我をさせてしまったことは園の方からお伝えします。
(経緯を説明)今後はこのような怪我のないよう職員同士ですぐに話し合い、バタバタするお散歩から帰ってくる時間帯は保育士を1名増やして対応することになりました。
本当に申し訳ありませんでした。」
ケース5:自分の子どもがちゃんとできないのは保育園の教え方が悪いから
保育園に預けていると家庭で育てている子どもよりもたくさんの同じ学年の友達と比べられる環境にあります。
送り迎えの時に自分の子どもだけが出来ていないように見えたり、保護者同士の会話で他の子よりも遅れていると思ったりしやすいのです。
保育園に通っていると家庭で過ごす時間よりも保育園で過ごす時間の方が長いため、できないことを保育園のせいにされてしまう場合があります。
このような場合は保護者の気持ちが焦っていることや劣等感のような気持ちがあることを汲み取り、その子にはその子のペースがあることとを伝えるとともに、その子の良いところや成長をしていることを伝えると安心してもらえます。
また本人の「やりたい」という気持ちを育てることも大切なので、保育園だけではなく家庭でもそのような環境を作れるように一緒に良い方法を見つける方向に運びます。
「〇〇ちゃんのことをとてもご心配されているのですね。
たしかに今はあまり興味がないようで、蝶々結びはまだできないですね。
でもお着替えはいつも一番にできて洋服をたたむのもとても丁寧にできていますよ。
それに、おしゃれをするのがとても好きなようですね。
リボンのついたお気に入りのお洋服や靴があったら、一生懸命練習するかもしれませんね。」
ケース6:熱があるけど預かって欲しい
保育園にあずけていると仕事で大事な用事があるときに限って朝から子どもが熱を出すということが度々あります。
そういう時に仕事を休むと「だから子持ちの人は」などと周りから言われてしまうというプレッシャーを感じることもあります。
しかし大勢の子どもたちと生活をすることが前提の保育園では熱があるからといって保育士をつきっきりにしたり別行動をさせたりすることは難しく、子どもの体調は病状が急変しやすいのも特徴です。
保護者の状況も充分理解を示しながら預かりができないことを伝えます。
「〇〇さん、今日は大事なお仕事があるのですね。
大変申し訳ないのですが、お熱が37.5度以上のお熱のお子さんは預かれない決まりになっています。
お子さんもお熱がある状態だと大勢のお友達がいる保育園で過ごすと辛いと思いますし、もっと悪くなって長引いてしまうこともあります。
〇〇さんもお仕事に穴を開けるとおつらい思いをされると思うと私たちも心苦しいのですが、どうかご理解いただけないでしょうか。」
ケース7:男性保育士をいれて欲しい
男性保育士がいると遊びがダイナミックになったり、多様な人間関係の中で保育することができ良い効果が期待できます。
しかし保育の現場にはまだまだ男性保育士は少なく、1割程度になっていて職員全員が女性ばかりで構成されていることも珍しくありません。
また近年の保育士不足から、ただでさえ保育士の確保が難しい現状です。
保護者の男性保育士に期待することを聞き、取り入れられる部分があれば取り入れていくという前向きな姿勢で対応します。
「こちらの園には男性保育士がおらずご希望に沿えず申し訳ありません。
もしよろしければ男性保育士がいたら良いと思う理由をお聞かせいただけませんか。
女性の保育士でもできることがあるかもしれませんので、ぜひご意見頂ければと思います。」
クレームをさらに大きくしないためには?
クレームが入ると早く解決したいがために急いで話を終わらせようとしたり、不確実なことを伝えてしまい、さらにクレームが大きくなってしまうことがあります。
急がば回れという言葉があるように面倒に感じられても丁寧な対応が求められます。
クレームをさらに大きくしないためのポイントを確認していきます。
1人で解決しようとしない。園長先生や先輩保育士に必ず相談する
クレームを受けると自分ひとりで解決しなければならないと思ってしまうことがあります。
しかしまずは園長や先輩保育士に報告・相談をします。
自分自身が冷静になり、アドバイスをもらえるだけではありません。
例えば以前も似たようなクレームを受けたことがあり、そのときと今回とで対応にバラつきが出てしまっては保護者の信頼をさらに失ってしまいます。
以前も同じようなクレームがなかった確認しながら、対応にバラつきが出ないように職員全員で情報共有していくことが大切です。
その場しのぎの約束事や憶測での発言は控える
クレームを早く収めようとする焦りから、よく確認をせずその場しのぎの曖昧な回答をしたり園の決まりでできないことを「できる」と言ってしまったりすると、その後言ったことを撤回するのは困難です。
自分では解決できそうもないことや判断できないことは必ず園長などの上司に確認を取るようにします。
大切なのはその場でできるのは相手の話をよく聞くことです。
相手の言っていることをそのまま上司に伝えるつもりで、しっかりと話を聞きます。
一旦その場での回答は避け、後日改めて話し合う場を設定する
初めは感情的になっている相手も話をしているうちに最後は少し落ち着いてきます。
さらに一度話の内容をを要約して相手の言ったことを繰り返し、自分の理解が正しいか確認します。
そうすることで相手も「きちんと話を聞いてもらえた」と思うことができます。
自分ですぐに判断できない場合や上司の確認が必要な場合は「上司を交えて後日お話し合いをさせていただきたい」と伝え相手の都合の良い時間を聞きます。
そしてなるべく早い日程で話し合いの場を調整します。
保護者からのクレームにはうまく対処しよう!
いざ自分がクレームを入れている保護者と対峙することになると必要以上に怖くなってしまったり自分が責められていると思い自分を守ろうという行動をしてしまいます。
しかし言い方を考えずその保護者に反論や否定をしてしまっては、かえってエスカレートしてしまうので注意が必要です。
逆に共感の姿勢を示すことで「話を聞いてもらえた」と感じてもらうことができます。
もちろん保護者の言いなりになってばかりとはいかない場合もあります。
ときには「できないことはできない」と伝えることも大切です。
とはいえクレームのほとんどは保育園側と保護者側での認識の違いなどから生じることがほとんどです。
大きなクレームを起こさないように日頃から意識してコミュニケーションを取り、保護者との信頼関係を築くことが重要だと言えます。